2011年06月12日

安曇野の楓

大きな青々とした楓の葉が、風にくるくるとそよいでいる。田んぼの稲も、揺れている。安曇野の大地には、そんなのどかな風が流れていた。

友達の写真家、渡辺正和さんが、6月9日にこの世を去った。享年56歳。撮影中の事故だった。

僕は仕事が入っていたので、お通夜もお葬式にも行けないと諦めていた。でも、お通夜当日に雨が降り、撮影はキャンセルとなった。レンタカーに飛び乗った。

ナベさんとドライブした田舎道。田んぼの向こうに連なる山々。リンゴを買った、小さなリンゴ農家。ナベさんは、僕の家の分まで買ってくれた。会話の一つ一つが、鮮明によみがえる。

彼のようになりたくて、彼のような写真を撮りたくて、いつも彼の背中を追いかけていた若いカメラマン数人が、到着した家の前で立っていた。亡くなったその日に、ナベさんの家に向かい、一緒に一夜を過ごしたという。「剛さん、来てくれたんですね。ナベさんも喜びます。ありがとう」その言葉に心が揺れた。

家の中で、たらふく食べさせて頂いた、北海道から取り寄せたホルモン。美味しい臭いが、部屋中を包んだ。近くの温泉に行き、二人でのぼせる寸前まで写真の話をした。そして家に戻ると、奥さんが布団を用意してくれていた。

ナベさんは今、僕の寝ていたところで寝ている。今にも笑い出しそうな、何とも言えない穏やかな顔をしている。僕は手を差し伸べ、ナベさんに触れた。これでお別れだった。

庭にすらりと伸びた楓の木。ナベさんの安らかな寝顔。

ナベさん、ありがとう。